木村迪夫詩集『飛ぶ男』

 巻末に紹介されている既刊図書を数えたら、記載漏れがないとすれば、この度の詩集『飛ぶ男』は25冊目の著書であるようだ。「詩集」のみならず「エッセイ集」、「ルポルタージュ」、「小説」とそのジャンルも多岐にわたっている。毎年1冊上梓したとしても25年を要する。これはとにかくすごい数字で、なによりもその健筆ぶりに驚かされる。
 ものを書くという行為は、はたして誰に向かってなされている行為なのだろうと、時折まじめに考えてみるのだが、うまい答えは見つからない。かつては自己表現だと言い切ってきたのだが、純粋な自己表現なら公刊する必要はない。では一歩下がって、書くことで外化された自己表現の作品を自分以外の誰かに読んで欲しいからだろうか。つまり互いに自己表現を晒し合うことで心的な世界を交流させ、せまい自分の世界を他者のそれと相対化させながら拡大していきたい欲求に裏打ちされている行為なのだろうか。あるいは、煩悩のかたまりである己の、単なる自己顕示欲のバリエーションにすぎない行為なのだろうか。様々なことが考えられるが、純粋な思索の要素も濃密に潜在していることも間違いない。
 とにかく書きたい衝動と、読んで欲しい欲求が相互に刺激し合い、それが一段と隆起して結実するスタイルが「出版」というものなのかも知れない。木村迪夫氏のエネルギー畏るべし、である。

go top