独善的に選んだ、2020年極私的ベスト・ブック!

『日本を開国させた男、松平忠固:近代日本の礎を築いた老中』
著者:関 良基 作品社
新年あけましておめでとうございます。
本年も書肆犀をどうぞよろしくお願い申し上げます。
年頭の挨拶にかえまして拙文を掲載致しますので、よろしかったらお読み頂けたら幸甚と存じます。
在野の歴史研究愛好者たちをその世界からふるい落とすためのキーワードとしても使われかねない《一次史料》という魔力を持った眩しい言葉。その魔物を駆使し、本来は自然科学の領域が専門である著者・関良基氏が、研究室の奥でさも唯一無二の真実であるかのごとく構築してきた歴史研究アカデミシャンたちの幕末史の通説を大胆に覆してみせたことに、まずは驚きを禁じえません。著者の計り知れないフィールドワークの広さにまずは脱帽です。それはまた本来的な意味で《一次史料》が活かされた素晴らしい仕事のように思えてなりません。アカデミックな世界で化石化しつつあるかにみえる歴史学。いわゆる《通説》という一種の幻想にたいする信仰心や先入観を著者が幸いにも有していなかった分、自由な視野角を持てたのかもしれないと思うと、在野の歴史研究愛好者もまだまだ希望を持てる、そんな勇気を与えてくれる貴重な一書でもあります。幕末史(明治維新史)に関心を持っている人にぜひお読みいただきたい本です。
目次だけ転載しておきます。
第1章 日米和親条約の舞台裏-徳川斉昭と松平忠優の激闘
第2章 日米修好通商条約の知られざる真相-井伊直弼と松平忠固の攻防
第3章 ”不平等”でなかった日米修好通商条約
第4章 日本の独立を守った”市井の庶民”たち
第5章 日本の独立を脅かした”尊攘志士”たち
終章  近代日本の扉を開いた政治家、松平忠固
この大目次にはありませんが、我が国の近代を支えた生糸産業の振興も実はこの松平忠固の業績として、本書の奥深さを担っています。
ちなみに老中・松平忠優(ただます)と松平忠固(ただかた)は同一人物。時間的な推移の中で改名があったようです。幕末期の上田藩主。
著者:関 良基 (せき よしき)氏の略歴は以下のとおり。
拓殖大学政経学部教授。1969年信州上田生まれ。京都大学大学院農学研究科博士課程修了。博士(農学)。早稲田大学助手、(財)地球環境戦略研究機関・客員研究員などを経て、2007年より拓殖大学政経学部。
主な著書に『社会的共通資本としての森』(宇沢弘文氏との共著、東京大学出版会)『中国の森林再生』(御茶の水書房)『赤松小三郎ともう一つの明治維新』(作品社)など。
参考になると思えるレヴューです。

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