小説集

野口千明『養正館のひぐらし』『養正館のひぐらし』野口千明著
2016年5月25日刊 四六判 糸かがり上製本 372頁 定価/1,800円(税別)
装丁/南伸坊   解説/松田哲夫

天童藩校養正館に学ぶ少年たちの目線で描いた戊辰戦争をめぐる野口千明氏渾身の時代小説です。とりわけ天童藩にとって「庄内藩征討」は、いろいろな意味で熟考を強いてくるテーマです。野口氏独自の視点で書かれた物語をお楽しみ頂けたらと思います。

内容につきまして、松田哲夫氏の解説文「野口千明『養正館のひぐらし』に寄せて」から一部抜粋で掲載させて頂きます。
「天童藩を見舞った悲劇は、戊辰戦争のひとコマとして注目されており、長谷川伸が戯曲「吉田大八」(昭和九年)、子母澤寛が小説「奔流」(昭和十六年)を書いているという。これらの作品は、天童藩の悲劇の主役とも言うべき中老吉田大八を中心に描かれているようだ。
藩の上層部にピントを合わせて描いた先人に対して、野口さんの作品は、悲劇の周辺(というよりは現場)にいた人たちに焦点を当てている。すなわち、天童の養正館に通う少年たちであり、左沢村の博徒である。こういう描き方をしたことで、悲劇に直面した天童の人たちが、どのように反応し、振る舞ったかが目に見えるようだ。
少年たちや博徒たち、そして戦乱期には活き活きとする、中村次郎兵衛という魅力的なキャラクターなども出てくるのだが、惜しむらくはクライマックスの盛り上がりに欠けるような気がしてならない。
しかし、これは、作者である野口さんの責任ではなく、史実がそういうことだったのだろう。庄内藩の天童藩への攻撃という局面でも、被害を最小限に抑える努力がはかられているようで、内戦状態から血で血を洗う悲惨な関係にエスカレートさせない知恵が働いていたのかもしれない。」


大原螢著『小説・トホホの海~鳥海高校、僕らの演劇革命』大原螢著『小説・トホホの海~鳥海高校、僕らの演劇革命』
2013.1.12
表紙写真撮影/小山田正幸 新書判/218頁 定価 /1,200円[税別]

倦怠感漂う鳥海高校に赴任したばかりの新米教頭に、さっそく校長から無理難題が投げ掛けられる。思わず新米教頭は「トホホ」と立ち尽くす。物語はここから始まる。
生徒たちを蝕む日常的な無気力、淀んだ空気に馴れてしまった観のある職員室、それに過疎化し活力を失いつつある地域社会。それらの現状をまるごと引き受け、地域・学校・生徒もろともの再生を試みる冒険に新米教頭は戸惑いながら船出する。その深刻な状況を打破するための秘策として新米教頭が選んだテーマが《演劇》であった。さて、校長からの無理難題は、そして新米教頭の胸中深く宿った絶望感=「トホホ」は乗り越えられることになるのだろうか。


阿部よし子『小春日の記憶』阿部よし子『小春日の記憶』
1998.10
A5判変形 236頁 定価/1,800円[税別] 【品切】

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