私は小さい頃からどちらかというと方向音痴の傾向にあった。学生時代、東京駅や横浜駅の広大な地下街に何度も行っているが、その都度迷うありさまだった。考えてみると、碁盤の目のように区切られたほぼ同質な空間構成に対する認識が苦手だったのである。還暦を越えた現在、その方向音痴が直っていないばかりか、さらに悪化している。車の運転は比較的好きだが、極端に言えば、幾度となく行っている同じ目的地に向かうのにもナビゲーションをセットしなければならないのである。
さて、そんな自分の空間認識の弱点からくるのかどうかわからないが、まちの景観についても、同じようなことに思い至っている。数日前まであった建造物が解体され、更地になってしまうや、そこに何があったのかわからなくなるのである。かつては建て替えられるケースが多かったが、デフレが定着して以降、住む人も無く、買い手もつかずそのままになってしまうからなおさらである。隣近所や周囲の景観と一緒に全体として認識しているためなのだろう、一軒の更地化によって辺り一面の景観自体が変化してしまったように見えてくる。これも私だけのことなのか、誰にとってもそうなのかはわからない。ほんとうに不思議なのである。