〈韻文〉と〈散文〉

 詩はあらゆる言語表現の様式の中で最高のものであると言ったのはたしか萩原朔太郎であった。もちろんその根拠も含めて『詩の原理』(1938年)という論考のなかにぎっしりと〈韻文〉と〈散文〉の比較、より象徴的に言ってしまえば〈詩〉と〈小説〉の言語表現としての差異として論じられているわけである。これを言語表現の価値の問題に置き換えてみれば、〈詩〉は自己表出性の高い情動的な様式であるのに対し〈小説〉は指示表出性の高い構成的な様式であるということなのだろうと考えられる。
 文学作品を言語表現として本質的に解読するにはどうすればよいのか、あるいはその文学作品を表出史としての時間性のなかでどのように位置づけられるのかという難問に正面から取り組んだ吉本隆明の『言語にとって美とは何か』(1965年)。これを書くにあたって、この萩原朔太郎の『詩の原理』も大いにヒントを与えた一冊であったことは間違いないようだ。

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