「金曜寅さん」小感

毎週金曜、夜7時から、‘WOWOWシネマ’で「金曜寅さん」と題し、「男はつらいよ」シリーズの全作品を放映し続けている。それぞれの作品が、リアルタイムで映画館上映されているときには、まったく観たいとも思わなかったが、それなのに今観るとそれがなかなかいい。とりわけ、寅次郎がモノローグ風に、かつドラマチックに情景を語ってみせる定番のシーンは秀逸だ。語られている人や風景が、ほんとうにイメージとして喚起され、心のなかにふっと温かいものが重層的に積もってくるからだ。物語そのものは「水戸黄門」と同じく安定した定型作品で、これといって問題にすることでもない。だが、寅次郎の口から発せられる恥じらいの感触をおびた「ことば」は人間の機微を満々と湛え、滋味深いことを知る。自分の生きてきた時間の陰影に重なるように思えてくるのである。長く生きることは、言葉の意味をそれだけ深く感じ取れるようになる、そんな側面ももしかしたらあるのかも知れない。都合がつくかぎり見続けようと思っている。

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