歴史を〈研究〉する困難

仙台市博物館に勤務されている栗原伸一郎氏(上山市出身)より「戊辰戦争における諸藩対立構図の再検討ー奥羽列藩同盟をめぐる政治状況を中心に」という論文をいただいた。正直、アカデミズムに対してこれまでぼんやりと抱いていた自分なりの偏見や誤解の半分が消失した感じを受けた。「半分」というのには理由があって、栗原氏の責任ではまったくない。まだ権威や地位にあぐらをかいて先進的な研究に対しておかどちがいのいいがかりをつけている御仁がいるからだ。そればかりではない。文体が硬質というだけならまだしも、血の通った精気を感じられない文体で、学術論文として連綿と綴られることになるとさすがに辟易してしまうからでもある。

栗原氏から頂戴した論文を読ませて頂いて感じたことは、歴史を〈研究〉する困難に真正面から立ち向かっている勇姿だ。研究に入って行く入射角が明確で、水面下に研究に対する〈熱意〉を感じ取れる。確かに文体は硬質だが、その論の進め方の緻密さ、手堅さ、それを裏付ける史料や資料の精読から導き出される説得力に驚いてしまう。日頃より丹念に文献を漁り、かつ、様々な所に収蔵されている素材を調べ上げていく手法は、歴史を〈研究〉する本道だ、と言うのは簡単である。しかし、ひとつ一つそれをやって行く道のりの困難・過酷さは、実際に研究やそのまねごとをやってみた者にしかわからない。ましてやまだ誰も踏み込んでいない領域での研究は手探りから始まる。だれもその論文を書く為に都合のいい史料や資料を準備して持って来てくれるわけではないのである。

まだ40歳まで間のある栗原氏が、これまでの「明治維新史」を今後どう改編して行くことになるのか、おおいに楽しみである。ご健勝をお祈りするとともにご健筆を期待してやまない。

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