「西郷どん」寸感ー2

昨日(4月29日)放映(BS-2)された内容で特に気になったのは、やはり「安政の大獄」の描かれ方だな。

もちろん井伊直弼の諸策をどう評価すればいいのか、小生にもまだまだ分からない問題は山ほどある。けれど、この井伊直弼をして倒幕派の捕縛へと駆り立てた、つまり「安政の大獄」の前段となっている京都での開国派要人たちに対する尊王攘夷を叫ぶテロリストたちの凄惨な誅殺行動(研究者によれば600件にも及んだという)が、なんとワン・シーンも描かれていないことには驚いてしまう。

あまりにも一方的に、井伊直弼ひとりが狂ったかのように描かれている。どうみてもこの作り方には悪意すら感じてしまうんだよなぁ。そんな印象を持ってしまうのは小生だけだろうか。幕末史の検証と再構成がすすむ状況の中にあって、あからさまに旧態依然たる「薩長史観」の復活を目論んだプロパガンダ・ドラマであるとしか言いようがないようだな。いくら創作=小説作品でも、もう少し陰影や因果関係をふまえ、奥行き感をもって立体的に描いてほしいものだ。

それより何より、同じく大河ドラマの「龍馬伝」も「花燃ゆ」もそうだったが、幕府の何がどういうふうにダメだったのかすらほとんど描かれず、「この国をたて直さなければならない」と言われても、軽薄な心情的なお題目で終わってしまうんだよ〜〜〜。むしろ欧米の研究者たちのフェアな視線によって、わが国の江戸時代の社会システムや文化が再評価されつつある傾向もあるというのに…ね。

結局、海外列強のさまざまな脅威からわが国の主権を守り抜いたのは徳川幕府のテクノクラートたちの覚悟と英知だった。海外列強の国力・軍事力に対するさしたる認識も持たないまま繰り広げられた長州藩激派勢力による狂気じみた異国船への砲撃などは、その無知を晒した何よりの証というほかあるまい。外交力の欠如、ひいては暴力の誇示を意味するだけの稚拙な攘夷実践など、何の役にも立たなかった事は、少しでも歴史を繙いてみれば明らかだと思うんだけどなぁ。

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