ロンドン・オリンピックも終了した。蒸し暑い夏のひととき大いに楽しませてもらった。勝者、敗者から発せられたさまざまなコメントが、インターネット・テレビ・新聞紙上を飛び交っているが、その中でボクシングのミドル級で48年ぶりの金メダルをとった村田諒太選手の発した言葉はナイスだった。「このクラスで日本人がメダルをとるのは無理だろうと言われていたけど、俺にとって無理だろうとは言われていなかったので・・・」がその言葉だ。こんな言葉を吐いた選手は過去にいなかったのではなかろうか。戦っているのは共同幻想としての観念的な日本人ではなく、あくまでも孤独な研鑽に耐え得た一人ひとりのアスリートなのだということを彼なりにあっけらかんと衝いてみせてくれたように響いた。ほんとうにつきぬけた言葉だと思った。メディアは国威発揚の好機とばかりにメダルの数を国家単位でくくってみせるが、冷静に振り返ってみれば、戦ってメダルを奪取するのは、国家ではなく、本当に想像を絶する試練を自らに課して努力した一人ひとりのアスリート以外の者ではない。村田選手の言葉はいみじくもその暗渠に向けて射たれているような気がしたのである。