凄い本が出ましたね。

注目!『孝明天皇の毒殺説の真相に迫る』

仙台在住の医師・橋本博雄氏が孝明天皇病死(痘瘡)説を、医学的な視点から完全に否定する論文を著し、それに着目した直木賞作家の中村彰彦氏は近著『孝明天皇の毒殺説の真相に迫る』(2023年8月25日刊:中央公論新社)において、その論文を紹介しながら、孝明天皇に置毒(薬湯にヒ素を混入)した女官を追っている。

氏は以前にも『幕末史の定説を斬る』(2015年1月刊:講談社)において、同じテーマに挑んでいたが、その時点ではまだ橋本博雄氏の決定的な論文は発表されていなかった。
いよいよ長かった孝明天皇の死をめぐる論争の最終局面をみせられているような内容だ。
❝ 尊皇攘夷 ❞を叫ぶ倒幕勢力が、けっして ❝ 尊皇 ❞ではなかった史実が露になる、そんな瞬間にリアルに立ち会っている感覚だ。そればかりではない。近代化を推進する人たち(公家・武士・町人を問わず)を国賊として排除すべく、「天誅」をくわえていた自称勤皇の志士たちは、倒幕後「脱亜入欧」=「欧化主義」へと葛藤もなくいとも簡単に180度転回した史実をみれば「攘夷」でもなかったことがわかる。薩長を中軸とした倒幕勢力は、❝ 尊皇 ❞ でも❝ 攘夷 ❞ でもなかったとすればいったい何ものだったのだろう?
最後に、笑われるかも知れない戯言をひとつ弄しておきたい。
討幕運動の基軸はやはり石田氏の乱(関ヶ原の戦い)で徳川氏から受けた屈辱にたいする島津氏(薩摩)・毛利氏(長州)、そして山内氏にマウントされることになった長宗我部氏(土佐)の報復戦(積年の恨みを晴らす)だったのかも知れない。したがって、ぞんな視点からみれば徳川政権打倒の旗印は何であってもよかったんじゃないだろうか、なんてね。 

幕末ファンには是非一読して頂きたい好書である。

 

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